お役立ち

老人の家

美しいと言われるすべてを敷き詰めた部屋に横たわる男がいた。ペルシャ模様の分厚い絨毯の上にはどこか気品を感じさせる猫が寝そべっている。しかし主人にすら気を許していないのか、寝そべりながらも毛を逆立ててこちらを警戒している。

この家には時計がない。彼はもはやこれっぽっちも気にする必要がないからだ。あてどもなく彷徨って道行く人に物乞い。そんなときもあった。しかしそれも昔の話だ。彼は全てを手に入れた。そのために全てを失った。

ふと手に目をやる。木の枝のようなゴツゴツした指。我ながら力強さを感じさせる。脈々とした生命力がある。手相もみてもらったことがある。あらゆる占い師が彼の手相を賛美した。当然だろうと思った。そういうふうにできているのだ。世界の全てを手に入れるにふさわしいのはまさに自分だと思う。豪運。そして度胸。ここぞというときの勝負強さ。何人たりとも打倒してきた。あるものは彼を褒めたたえ、あるものは恐れた。

そういえば.....。

ふとおもった。

自分はいつからこの家に住んでいるのだろうか。思えば今まで無我夢中で働いていた。財産などない。家を買ったのはいつだろう。髭を触る。彼は落ち着きたいときに髭を触る。あった。髭があるのを確認すると起き上がって胡坐を組む。家を買ったのは....。

あっ

そんなとき玄関のベルが鳴った。
ピンポーン。

配達だっただろうか。もはや何を頼んでいつ届くのかすらわからない。欲しいものは何だって注文すれば勝手に届くのだ。

少し急いで部屋を出て廊下を歩く。廊下をまっすぐ行くと玄関だ。

ドンドンドン!!!
ピンポーンピンポーン

うるさいなぁ。彼は思った。すぐ開けるじゃないか。こんな昼間に泥棒だってことはあるだろうか。

どなたさまですか。

警察です。ドアを開けてください。

なぜ警察が?彼はそう思った。のぞき穴の向こうには確かに警官が二人立っていた。白髪の中年とヒョロっとした若いの。今開けますよっと。

途端に激痛が走った。あれ?頭がふわっとする。廊下の木目が笑っているように見えた。天地がさかさまになる。頭痛。あいたた.....。痛みをこらえる。

現在の時刻。5月3日13時50分。
殺人罪の現行犯で貴様を逮捕する。

白髪の警官がそういった。芋虫のように転がる。後ろ手に手錠。訓練された鮮やかな動きで拘束されてしまった。弁護士を呼べ弁護士を呼べ弁護士を呼べ。彼は叫ぶが警官二人は呆れている。

おまえ、これで何回目だよ?

ヒョロいのが言った。

どのみち、もう死刑だよ。

白髪が言った。

なり替わりってやつだ。現在分かっているだけでも仏は23名。この家には金持ちの孤独な老人が住んでいたんだよ。このクズはな、いつも自分がなりたい人間を狙うんだ。事前にみっちり調べてな。そうとしか思えねえ。そして殺した後に対象を演じるんだ。

ほらこっち見てみろ。

.....かわいそうに。むごたらしいやり方で殺しやがる。顔の皮をな。剥ぎ取るんだ。おい。現場を汚すな。吐くなら外にしろ。

...これだけ殺して平気な顔してやがる。
ったく薄気味悪いガキだぜ。

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